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本研究では底生有孔虫類を対象にして、塩分や光などの物理化学的な海水条件を一定に保ち、海水温だけを変えた飼育実験を行い、それぞれの温度条件で底生有孔虫殼に取り込まれるMg、Srの量を測定し、殻に取り込まれるMg、Sr量と海水温の関係を検討した。また、水温がよく記録されている野外で成長した底生有孔虫殻のMg/Ca比、Sr/Ca比の経年変化を調べ、自然条件で成長した底生有孔虫の殻のMg/Ca比、Sr/Ca比にも温度依存性があるかどうかを確認した。
2. 試料と方法
2−1.実験、測定に用いた有孔虫種の選択
飼育実験は、底生有孔虫Quinqueloculina yabei Asanoを用いて行った。Quinqueloculina yabei は岩礁地潮間帝の海藻に伴って生息する浅海生種で、古海洋学的研究によく用いられる深海生種付Pyrgo spp。と同じMiliolidae科に属する。QuinqueloculinaとPyrgoはともに石灰質陶器質有孔虫で、殻の結晶構造が類似しているために、MgやSrの殻への取り込み方も似ていると考えられる。
野外での経年変化の検討にはGlabratella opercularis(d’Ordiguy)を用いた。Glabratella opercularisは、深海の主要種であるUvigerina sppなどと同じ石灰質ガラス質有孔虫の仲間で殻構造も似ている。Glabratella opercularisは約1ヶ月で成長する7)ために、殻に約一ヶ月分の温度履歴しか保存されず、温度と元素の取り込み量を検討するためには都合がよい。
古海洋学で分析される有孔虫は深海生種がほとんどであるので、実験には深海生種を用いた方が直接的である。しかし、深海生種は成長速度が遅いので5)6)、成長した殻を分析する今回のような実験には適さない、一方、浅海性有孔虫類は成長速度が速く(例えば、Tsuchiya et al.,19947))、比較的飼育も容易であることから、実験に適している。
2−2.飼育実験
飼育に用いたQuinqueloculina yabei は静岡県境津市大崩海岸(Fig.1)の岩礁に繁茂する石灰藻から採取した。有孔虫類を含んだ堆積物は海水と共に実験室内で粗放飼育したのち、Quinqueloculina yabei を双眼実体顕微鏡下で拾い出した。Quinqueloculina yabei のみの個体群は、エサと共にしばらく粗飼育(飼育条件等を厳密に制御しない)を行うと、いくつかの個体は、無性生殖をし、遺伝的に均一なクローンができる。実験には無性生殖で増殖したクローン個体を用いた。クローン個体はそれぞれ遺伝子組成が同一であるために、実験の時に遺伝的影響を除くことが出来る。
飼育はガラスシャーレを用い、10、15、20、25℃の4条件に設定したインキュベータ内でそれぞれ実験を行った。インキュベータの水温は毎日記録し、飼育温度がそれぞれ一定になるようにコントロールした.飼育海水は、0.2μmのメンブレンフィルターで流過した外洋表層水を用いた。海水は、蒸発によって塩分量が変わらないように、毎日交換した。餌は単細胞緑藻のChlorella sp。を生きたまま与えた。光は1500lxの光量で、12時間の明暗サイクルで照らした。有孔虫類は、それぞれの水温条件下で60日間飼育した後、成長した個体を測定に用いた。

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Fig. 1:

Map of sampling localities. Arrows shows exact sampling locations of Ohkuzure and Omaezaki.
2−3.経年変化
経年変化を検討するために用いたGlabratella opercularisは静岡県小笠郡御前崎町、御前崎灯台前のタイドプールから採取された石灰藻試料から拾い出した(Fig.1)。試料は1987年5月17日、7月12日、9月20日、11月23日、1988年1月21日、3月19日に採取したものを用いた。全ての試料はローズベンガルホルマリンで固定・染色した後、乾燥させてある。ローズベンガルは有機物を特異的に染色するため、有孔虫殻内の細胞質が染まっているかどうかで、試料採取時の生死を判断できる。試料はローズベンガルで染まっているものだ

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Fig. 2:

Temperatures vs. culture days for four different environmental conditions.

 

 

 

 

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